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あおはる!

小森田 貴士

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青春というものは素晴らしいものである。

どんな人にも等しく訪れるその甘酸っぱい日々。
僕は最近、こんな場面を見かけた。

スーパーの横の歩道を足早に歩く高校生の女の子。
その顔は何故か憤りをはらんでいる。

そしてその数メートル後ろに
男子高校生が、走るでも、歩くでもない、
微妙なスピードと距離感で女の子の後を追う。

そして彼の表情はやけに神妙なものだった。

「ねえ。」

男の子が業を煮やし、声をかける。
しかしその声は彼女の耳には届かない。

「ねえって!」

女の子の足が止まる。
前を向いたままその声に答える。

「もう遅いよ。」

男の子は言葉を遮るように続ける。

「そんなことない!絶対ない!!
まだ絶対に間に合うから!
なあ、行ってやれよ!!」

「行くってどこに!?
なんで私が行かなきゃいけないの?は?
意味わかんない!」

一体どんな事情があるのか。
なんとなくわかるようなわからないような、
そんなやりとりだ。
ただ一つわかるのは、かなりシリアスな場面だという事。
まるでドラマのようなセリフ回しも、
青春の一場面を大いに盛り上げている。

ああ、気になる。気になるなあこれ。
とはいえ、立ち止まってしまった二人と一緒に
僕も立ち止まったのでは、この盗み聞きがバレてしまう。

仕方ない。諦めよう。
若者の青春の邪魔をしてはいけない。

しぶしぶ車に向かって歩いていると、

「あの、」

先程の男子高校生に声をかけられた。

「へあ!?」

盗み聞きがバレたのだろうか。
え、これって何罪になるんだろう。
ああこれもう仕事クビかなあ。
マジかあ。
何年食らうのかなあ。

「落としましたよ!」

先程の神妙な面持ちが嘘のように、
彼は爽やかを絵に描いたような笑顔で僕に袋を差し出す。
15センチほどの茶色い袋に、
「紅はるか」と書かれたシールの上に
黄色い「半額」のシールが貼られた袋を。

「あっ、ありがとうございます…」

と言いつつ袋を受け取っている僕に目には、彼の肩越しに
先程の女の子がズンズン歩いて離れて行くのが見える。
すごいスピードだ。
あれなんであんな速いの。

いや少年よ、おっさんの焼き芋拾ってる場合か!
追いかけてやれって!!
ほんで、いやあっつ!!焼き芋あっつ!!!
なんで半額なのにこんなあっついの!
ねえうしろ!!少年うしろ!!!
あっつ!!!まだあっつ!
いや女の子行っちゃうよ!!!!
ねえ目線で気づいて!?
俺チラチラ君の後ろ見てるよ!?
なにかな!?
見てごらんよほら!!

どうやら僕のテレパシーは伝わったらしく、
男の子は はっと気づき後ろを振り返る。

だが、
そこに女の子の姿はもうなかった。

男の子は、また僕の方を見る。
見たことない表情だ。
そりゃそうだ。おっさんの焼き芋拾ってる間に、
大事な青春の一場面が過ぎ去っていったのだから。
僕もわけわからんもん。
ごめんて。

彼は、ふぅ、と、ため息をついた後
僕の手にある紙袋を一瞥すると、
ぺこりと頭を下げ、女の子の歩いていったのとは
逆の方向に歩いていった。

僕が焼き芋を買った、平和堂の方向に。

僕は思った。

「絶対芋買うやん。」と。

だがそれもまた、一つの青春の形なのかもしれない。

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