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きみょう!(前編)

小森田 貴士

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僕が中学生の頃
友人の近藤くんと一緒に、「右近寺さん」という
近所に住むお金持ちの家に
「奉公」と称しお手伝いに行っていた。

もちろん、目当ては、
「お茶代」という名のお小遣いである。

やることといえば庭の草むしりや、部屋の掃除、
洗車に模様替え。靴下干し。(今思えば謎だ)

この右近寺さん、本当に超がつくほどお金持ちで、
家の正面にあるびっくりするほど大きな門が開くと、
庭にロータリーがあり、その真ん中には噴水まである。

しかも右近寺さんはとても変わり者で、
ロータリーの中心の噴水の他にもあと3箇所も噴水がある。
一体どうしたというのか。
体が乾くと死んでしまうのだろうか。

そしてその出立ちもなかなかのもので、
まず髪は金髪のロングで真ん中は綺麗に一直線にハゲている。
いや違う、僕のことじゃなくて。
誰がハゲや!!

ふんっ

まあ話を戻しましょう。

そういったエキゾチックな髪型をした上で
ヒトラーばりのちょび髭をたくわえ、
いつもインコみたいな色のド派手なスーツで
おかしなパンツみたいな紫色のベンツに乗っている。

いわゆる「じいや」のような人も一緒に住んでいるが
車で出かける時の運転は決まって右近寺さん本人。
じいやはいつも後部座席で居づらそうにしている。
車の中では運動会みたいな曲や、
ラジオ体操がBGMとして流れる。
なぜなのか。

そんな変わった右近寺さんとも中学3年になるころから
もうずっと会っていなかった。

今も近所に住んでいるのだが、
あの頃以来、見かけたことすらなかった。

そして月日は流れ先日、家の近所を歩いていると、
少し遠くに見覚えのある変な色のベンツ。
そう、趣味の悪いパンツみたいな色の紫。

「まさか」

僕は思った。

運転席を見ると、金髪にロング、ちょび髭の
ド派手な黄色いスーツのおじさん。

いやだからそれは僕じゃない。何度言わせるんだ。

そして後部座席には綺麗に整った白髪の老人。

「ああ、あれは」

僕の中でニューロンとシナプスがフル稼働して
一つの答えに辿りついた。

「あれは、右近寺さんだ。」

あの頃と全く変わらない姿に、懐かしさを覚えつつも、
僕の体は凍りつき、
思考は完全に停止した。

空いた口が塞がらない、というのは
表現上の比喩などではなく、
本当に起こり得る事なのだと知った。

右近寺さんがそこにいるはずがない。
それは絶対にあり得ないのだ。

「えっなに?怖い話?実際はもう死んじゃってるとか?
やめてよー!んもーーー!」

と思われた方、
それはハズレです。

「近所のお金持ち、右近時さん」

実は彼は、僕と近藤くんの妄想の中の人物なのです。

つづく……..

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