ぴんち!
新幹線に乗る時、意味もなく窓側を選びたくなる。
これは僕だけではない筈だ。
窓側の利点は、外が見える事。
そして壁に寄りかかることが出来ることである。
逆に不利な点は、通路に出る際
誰かの前を通る必要があるということだ。
そしてその誰かもおそらく大きな荷物を持っているため、
それを足元にでも置かれた日には
まるで脱獄でもするかのような難易度になる。
さらにその誰かが難ありな可能性も大いにあり得る。
こうなると窓際席はもはや
かの有名なギャングの王、アル・カポネも収容されたという
脱出不可能な孤島の刑務所、アルカトラズである。
そんな窓際席で僕はひどく狼狽していた。
隣に座る初老の男性は
まるでアルカトラズの看守のように
僕の脱出を阻んでいたのだ。
その席には前面の壁に電源が付いおり、
看守はそこに充電ケーブルという名の
有刺鉄線を接続している。
そしてその有刺鉄線はスマートフォンという名の
高圧電流フェンスに繋がれ、
そのフェンスからは再びイヤホンという名の
有刺鉄線が看守の耳に向かって繋がっている。
そう、ここは既に陸の孤島と化しているのだ。
看守の冷たい目は僕の額に流れる冷や汗を横目で見ている。
いや、よく見たら見ていない。
スマホで「GANTZ」のアニメ観てる。
ああ、これめんどくせえな…
だってここ通ろうとしたらどれかのコードを抜いて、
一旦テーブルの上から全部退けてから
看守自身もイナバウアーばりに後ろに反らなきゃ
僕はここで新しい扉を開くことになる。
とはいえ実は結構な人見知りの僕。
「すいませんちょっと通してください。」
の一言がなかなか言えない。
気づけばもうかれこれ20分近く看守と一緒に
「GANTZ」を観ている。
改めて観るとこの作品の冒頭は本当に面白い。
面白いけども。
さあそろそろ限界だ。
膀胱という名のアレは..えーっと
もう例える余裕ねえです。
あーでも面白いな「GANTS」
あの丸い球体に出る文字のフォントがバラバラなのも
なんか雰囲気出てるんだよなああああ漏れそう!
そしてGANTZはかの有名なあのシーンに。
「行って下ちぃ」
僕「あの、すいません…」
看「ああっ!はい!!あっ!すいません!!ちょっと!待ってください!」
めっちゃバタバタしてる!!
ああ看守いい人だった!!
「アレ!?抜けない..!くそ..!」
もう本当ごめんなさい!!
ありがとうございます!
悪いのは僕の膀胱です。
ああもうこのバカ膀胱!!
バ膀!バ膀ちゃん!
は!?バ膀ちゃん!?なんそれ!?
無事に用を足し席に戻ると、
看守改めミスターカインドネスは
もう球体のように小さく丸まって僕の帰りを待っていた。
ありがとうミスター。
一緒にGANTZに転送されたら協力して戦おうね。