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THE 死んでるみたいだろ?寝てるだけなんだぜ

小原 一哲

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冷気を纏った心地よい空気が男を包む
連日の熱帯夜が嘘のように心地よい空気
生まれたての太陽の光に抱かれ男は横たわる

茶色い小汚い鳥が話しかける
体に似合わぬ綺麗な声で
「この世界が仮想空間だったらどうする?現実が現実だという証明はできる?」
しかし男の鼓膜は空気の震えを感知しない
両耳にしっかりと詰め物をしている

目を閉じると完全な1人きりの空間
まるで世界から自分だけ切り離された様な錯覚に陥る

睡眠とは母胎回帰かもしれない
300日ほど過ごしたあそこに毎夜私達はタイムスリップしていたとしたら
そこで何を見ているだろう?

女が男を撮影する
蒼白の顔
削ぎ落とされた眉
ほうぼうに散らかる毛髪
ヒマラヤ山脈あたりの永久凍土から出土したミイラを思わせる

男は目を覚ます
これから始まる武器のない戦争に身を投じる覚悟をしながら

女が駆け寄り触れられぬ一枚の写真を見せてくる
その電子の塊は2つの眼球を突き抜けて脳髄を揺さぶる
男は覚醒しきれない頭と一時的にしゃがれた声でこう言った
「死んでるみたいだろ?寝てるだけなんだぜ‥」

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