じけん!
よく晴れた年の瀬のある日の事だった。
見慣れたはずの景色にさ瑣末な違和感。
そこにはあるはずのない、
あってはならないものが横たわっていた。
年末の冷たい空気に晒されて冷え切った歩道に
まるで世界から取り残されてしまったように
「チーかま」がいた。
おそらくついさっきまでは誰かの空腹を、
誰かの手持ち無沙汰を、
誰かの仕事の疲れを癒す晩酌を、
優しくそっと癒すために存在していたはずの
チーかま。
1968年に、ドイツのチーズ入りソーセージをヒントに
丸善の開発研究員、村上清が考案したチーかま。
発売当時には
「おらが幸」
というめちゃくちゃ渋い名称だったチーかま。
1945年創業の丸善の経営理念は
「おいしい、夢のある食品づくり」。
それなのに。
これではあまりにも悲しいではないか。
考案者の村上も、丸善の代表取締役の原 啓康も
こんなつもりでチーかまを作ったわけではないだろう。
誕生から52年。
もはや呼び捨てするには気が引けてしまうこの
チーかまさん。
仕事が終わったらせめてお墓を作ってあげようと
思っていたのに、
夜にはもうその姿は無くなっていた。
きっと彼は、次のちーカマさんに生まれ変わるために
未来へと旅立っていったのだろう。
ありがとうチーかまさん。
そしてまたいつかお会いしましょう。
感傷に浸りながら車に乗り込もうとした時、
駐車場の端にビニールの残骸があるのを見つけた。
細長く、バナナの皮のように裂けたそれは
どう考えてもチーかまさんの
今朝出会ったチーかまさんの、
変わり果てた姿であった。
え?誰か食べた?