THEE ある男の話
ある男が夜汽車に乗る話
不穏な空気の中
男が車内で幕の内弁当を食べる話
何か起こりそうだけど
結局最後まで弁当を食べる話
そいつは結構独特の食べ方をしていて
主食を軸におかずや汁物を食べる和と
コースのように次々食べ進める洋の
ちょうど中間の様な食べ方をしてて
つまり、弁当を開けた時のメインを決めて
副菜でお米を半分ほど食べ
残り半分のお米をメインと食べる
よくもまあただ弁当を食べるだけの事を
ここまで掘り下げて一つの話にしたもんだ
鬱陶しいくらいにゆっくり
一品一品吟味と小話を挟み
中身がわからないフライに対しては
ソースをかけるか、醤油をかけるか
フライの横にあったからソースであろう
博打の様にソースをかけてくらいつく
そんな様子がダラダラ、ダラダラと
その日のメインはイカリングフライ
男にとっては思い出の味で
虐げられてた幼少期の遠足
優しく声をかけてくれた同級生の女の子
その子がくれたのがイカリングフライ
以来、男はイカリングフライに特別感を持ち
思い出に浸りながら大事に取っておいた宝物
すなわちイカリングを一口
さぞもっちり、イカの感触を期待した男が
口を震わせながら囁く一言
「た、たまねぎ‥」
そんな話が呪いみたいに頭にこびりつく
その男みたいにめんどくさいルールはないけれど
11歳の頃に田舎のスーパーでやってた駅弁フェア
牛タン弁当の下に紐が付いていて
そいつを引っ張ると中の物質が化学反応し
レンジがなくてもあったかい弁当が食べれる
そんなシステムに感動して早20年
今でも駅弁フェアには弱い
だってそこにいなくても各地の名物が食べれる
遠くにいる人と電話してる不思議な感覚
確かに距離はあるけれど今はとても近く
流れ流れてここに来るまで
どんな景色をどんな人間を見て
ここに来たのだろうか
そんな気持ち悪い妄想をしながら
妻に買ってきてもらったタコ飯とイカ飯
北と南の名物はきっとこんな機会じゃなければ
顔を見合わすことなんてないのかも
もしかしたらフェアやりすぎてて顔馴染みかも
そんな事を思いながら
甲乙つけ難い2つの軟体生物弁当を
薄暗いリビングでいただきます(節電)