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THEE 遠くまで来たら

小原 一哲

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あまりにも頭を使いすぎている

考える事ばかりで感じるのを忘れている

欲しい物は指先一つ歩けばもうコンビニ

その街が発する匂いを

雄大な川のせせらぎの音を

群青の早朝の空の色を

湿った灯籠の感触を

その土地の銘菓を

誰が感じていただろうか?

みな早足で歩き

スマホに目を落とし

まるでシューゲイザー系のバンドのようだ

露天風呂で隣あったおっちゃんの

訛りから推測する出身地

そこで働く人達の生活の想像

行き交う車の人達の今日の予定

早朝のグランドで走り続ける人の事情

そんな事を誰が想像しようか?

山に低く垂れ込める雲が美しい

コットンキャンディみたいなその中を

突き抜けたらどんな気持ちだろうか?

ロビーの片隅に喫煙室があって

そこからは長良川が一望できるんだ

白鷺がちょこちょこいて

川の手前には小さい庭園

前日の雨で庭園の木の枝の先に雨粒がたくさん

それが宝石みたいにキラキラ輝いていて

とっても美しかったのさ

夜には見えなくなるその宝石を

多分見ている人は少ない

タバコを吸いながらスマホ見てる

喫煙室の横に小箱があって

昔芭蕉が来たとかなんとか

俳句を投稿できるみたいだったから投稿したさ

「枝の先 岐阜の朝露 宝石か」

妻には散々イジられたけど

割といい俳句だと思う、正確には川柳か

時代が時代なら名を残す歌人になっていたかも

そんなくだらない妄想をしながら

なんかいいお香の匂いのする廊下を

何度行っても迷う迷路のよう

外を歩いていたら古めかしい不動産屋

ちょうどおっちゃんが出てくるとこでさ

空いていた引き戸から香ってきた微香が

なんだかすげぇ懐かしい感じがして

これをエモいとか言うのかな

旅館に一泊するならば

せめてチェックアウトまでスマホを見ない

そんな旅も面白い

ゆったり流れる時の中を

ボーッとするのはなんと贅沢な事か

日常に忙殺されてた心が蘇る

時間も有限だって事に気づくはずさ

大事な時間をいかになあなあな事に費やした

楽と楽しいは全く違う事

ああ、どこで歯車を違えたのか

死に向かって止まる事のない列車に乗って

せめて少しだけそれを忘れる事ができる

そんな贅沢が旅行にありけり。

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