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きみょう! (後編)

小森田 貴士

前回のあらすじ

ひえーー !信じらんねえ!
趣味のわりいパンツみてえなベンツに乗って
近所をへえけえ(徘徊)する
決して存在するはずのねえ幻のおっさん、
「右近時さん」に出逢っちまったぞ!
でもその右近時さん、
そんぜえ(存在)しねえはずなんだよなぁ!?
オラびっくりしちまってよぉ
ええたくち(開いた口)が塞がらねえって
このことかあ!

と、ここまで書いて悟空がこの感じで喋るのは
あらすじじゃなくて次回予告だということに気づいたが
当然直す気はありません。悪しからず。

もし万が一気が向いたら前話ご参照の上お読みください。

きみょう!(前編)

きみょう!(前編)

それはもう、地面につきそうなほど開いていた。
まるでゴリゴリに改造されたヤンキーの車のように。

そう、僕のアゴである。

開いた口には夕方になると田舎の道端で
ブンブンと集団で飛び回る蚊柱のユスリカが
次々に飛び込んでくる。
ユスリカは集団で飛ぶ際に、目印となる背の高いものを見つけ
その近くを飛ぶ習性があるそうだ。
彼らからしてみると身長165センチにも満たない
小さな僕も十分な目印となるのだ。
ふふ、少し嬉しい。

おかげで正気を取り戻した長身の僕は
走り去る紫パンティーベンツを高い目線で見送りながら
この事件の真相についてさまざまな考えを巡らせる。

これも妄想説。
いやこれは怖すぎる。
いけないお薬はやっていない。

右近時さん実在説。
いやそんなはずはない。
「最近お金持ちの家でバイトしてんだよね、
近藤くんと一緒に。」と
嘘をついた瞬間の、近藤くんの
「おい俺を巻き込むな」という顔を
今でもはっきりと覚えている。

そしてその考察はある答えにたどり着いた。

右近時さんを見かけた日は綺麗な夕日が
田舎の田んぼ道を赤く照らしていた。

たまたまそこを走っていた、今では珍しい
80年代後半のメルセデスベンツ。
車好きの僕の目線を奪うには十分な車だ。

そんな車の運転席に座っていたのは白髪のご老人。
白に近い明るい色のスーツを着て、
後部座席には黒っぽいスーツのご友人を乗せて。

おそらくシャンパンゴールドかシルバーのベンツのボディと
その車内には、夕方の鋭角な、
真っ赤な太陽の光が差し込み、
本来上品なはずのその車の車体はそう、

まるで卑猥なパンティのような色に染まったのだ。

そして運転席の男性の白っぽいスーツは
インコのようなオレンジイエローに、
美しい白髪はド派手な金髪に染め上げられたのだ。

もうそこまで条件がそろえば
誰だって口を揃えてこう言うだろう。

「あれは、右近時さんだ。」と。

もちろん仮説でしかないし、なんだか寂しい気もするが、
現実なんてこんなもんだ。

しかし、一つだけ疑問が残った。

その老人が左折時の確認で右側にいるこちらを見た瞬間、
完全に目と目が合ったのだが、その瞬間
パンツ(パンティみたいな紫のベンツ)は急ブレーキを踏み
運転席のその男性は
明らかに驚いたような表情をして見せたのだ。
そしてその後はお互いに怪訝な表情のまま会釈をし合って
ゆっくりと車は走り去った。

前日に切り揃え方を失敗したちょび髭状態で
金髪の長髪に
インコみたいなド派手な色のTシャツを着た、
僕を残して。

右近時さん。それはもしかすっと
誰の心の中にも存在してんのかもしんねえな…!!
オラ、ワクワクすっぞ!!!

それじゃあ、また見てくれよな!!

どうでもいい話を長々と、すいませんでした。

 

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